今月の特集

戻る

2001年6月

Summer Vacation

サマーバケーション

Summer Vacation H アンコールワットの旅
カンボジア

抜けるように青い空と緑の水田が延々と続くカンボジア北部の古都シエムリアップに、荘厳な姿を見せているのがアンコール遺跡。灼熱の太陽が照りつける中、無言でたたずむアンコール遺跡は、圧倒的な歴史の重さを感じさせるアジア最大の仏教遺跡だ。日本からよりも行きやすいシエムリアップは、シンガポールから直行便で3時間。2泊3日、3泊4日のお手軽スケジュールで、重厚な世界遺産を味わうことができる。
 アンコール遺跡は、中世クメール帝国が生んだ世界的仏教遺跡群。「アンコール」はサンスクリット語のナガラ(都城、国家)が語源で、都市国家を意味する。9世紀から15世紀にかけて栄華を誇ったクメール王朝は、一時はインドシア半島の大半とマレー半島の一部をも領有した一大帝国だったが、15世紀半ば、タイのアユタヤ王朝に侵攻され陥落。その後荒廃が進み、遺跡群は1858年フランス人学者に再発見されるまで、密林の中に人知れずひっそりと眠っていた。
 アンコール遺跡は、アンコール周辺に建造された百以上の寺院、王宮、神殿全体を指す。クメール王朝期はヒンズー教と仏教の影響を受けたため、遺跡によっては、ヒンズー教と仏教が融合した独自のクメール様式が見られる。中でも、アンコール・ワットとアンコール・トムの二大遺跡には、見る者を圧倒する迫力があり、シンガポール在住中に一度は訪れておきたい。

写真:

★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆

●アンコール・ワット


写真:
クメール建築の最高傑作と謳われるアンコール・ワットは、アンコール遺跡を代表する巨大なヒンズー教寺院。世界三大仏教遺跡のひとつで、世界遺産にも認定されている。クメール王朝の全盛期を創り上げたスールヤヴァルマン2世によって、1013年から1052年の約40年間の歳月をかけて建立されたと言われる。アンコール・ワットには膨大な量の石が使われており、原料となる石材は周辺の山々から切り出されたと推定されるが、どのように石が運ばれ、誰が精巧な設計を手がけたのかは、未だに謎に包まれたままだ。
 アンコール・ワットは東西1・5キロ、南北1・3キロ、幅190メートルの堀、東西2つの参道、東西南北4つの門(現在南門と北門は閉鎖)、3つの回廊、5基の塔、塔と塔の間を連結する階段で構成された、ピラミッド型寺院。第1回廊から第3回廊まで順々に高くなる造りで、回廊には精巧なレリーフ(浮き彫り)が見られる。第1回廊のレリーフは、壮大なアンコールの絵巻物語形式。古代インドの大叙事詩「マハーラバータ」のクライマックスの場面を皮切りに、スールヤヴァルマン2世の偉業を讃える「王の回廊」、「天国と地獄」、ヒンズー教の天地創造神話「乳海攪拌(かくはん)」へと、左回りに進行していく。
第1回廊から第2回廊へと続く通路の柱のひとつに、日本語の墨書が残っている。これは1632年、父君の供養でアンコール・ワットを訪れた肥前の武士、森本右近太夫の手によるもの。第3回廊からは広大な敷地を見下ろすことができ、全身に風を感じながらたたずむと気分爽快。暮れなずむ静寂の中に身を置きながら、数百年前の栄枯盛衰に思いを馳せると、遙か昔の英雄たちの声が聞こえてくるかのようだ。
 第2回廊と第3回廊は見どころが多くはないが、第2回廊にある女神デヴァダーの群像、寺院内の随所に見られるクメール建築の特徴である偽窓、クメール様式の装飾や彫刻は必見。
 この遺跡は西向きなので、午後に訪問したい。回廊間を結ぶ階段は勾配がかなり急なので、滑りにくく歩きやすいシューズを着用しよう。階段を裸足で昇ってみるのも、ひんやりして快適だ。

●アンコール・トム

 アンコール・ワットと並んでアンコール遺跡の双璧をなすのが、「大きい都市」を意味するアンコール・トム。12世紀末から13世紀初めにかけて、ジャヤヴァルマン7世が造営した宗教都城で、一辺3キロ、高さ8メートルの城壁で囲まれている。この都城は、中世クメール人が信じていた神の世界を具現化したものと言われている。城内には、観音菩薩を祀る大アンコールの中心寺院バイヨン、ヒンズー教に則った独特の建築様式を持つバプーオン寺院、ピミヤナカス宮殿、王宮、象のテラス、癪(ライ)王のテラスなど、多数の遺跡が残っている。
 アンコール・トムの中で最も有名なバイヨン寺院は仏教寺院。ジャヤヴァルマン7世は敬虔な大乗仏教徒で観音菩薩を深く信仰したため、中心寺院バイヨンの上部テラスには、大きな観音菩薩の四面塔が見られる。塔の四面に施されている観音菩薩の尊顔は、長さが1メートル75センチから2メートル40センチもあり、塔の数は全部で54基! 巨大な観音菩薩像がズラリ並ぶ姿は、まさに圧巻の一言。尊顔が四方を向いているのは、仏の慈悲が世界中に行き届くようにとの願いをこめたからとか。口の両端を心持ち上げて控えめに微笑むその表情は、クメールの微笑みとして有名だ。
 バイヨン寺院にもアンコール・ワットと同じく3つの回廊があり、レリーフが刻まれている。描写はアンコール・ワットと異なり、第1回廊には兵士や庶民の姿が多数描かれていて、当時の人々の生活をしのぶことができる。第2回廊のレリーフには、女神デヴァターや僧侶の描写が数多く見られる。

写真:

●その他のアンコール遺跡
 アンコールの見どころは多彩だ。しかし、カンボジアの日中はとにかく暑いので、無理のないプランを立てよう。アンコール・ワット、アンコール・トムの二大遺跡のほか、どの遺跡を回るかは迷うところ。車で回りやすいコースのひとつが、タ・プロム、プレ・ループ、東メボン、ニャック・ポアンを巡るコース。
 僧院のタ・プロムは、外せない遺跡のひとつ。破壊されたままの形をとどめた遺跡で、巨木が塔や塀の上から根を張り、建築物を圧している姿は異様とさえ感じてしまう。巨木が点在する敷地内は昼間でも薄暗く、自然の猛威に満ちた不思議な空間だ。
 プレ・ループと東メボンは共に、ラージェンドラヴァルマン2世により建立された。プレ・ループとは、死者を荼毘(だび)に付す際の儀式を指し、身体を変える意味があるという。3層のピラミッド型が美しい、繊細な彫刻が随所に見られる寺院だ。東メボンは、ラージェンドラヴァルマン2世が都をコー・ケーからヤショーダラプラに戻して最初に建てた寺院で、大人造湖東バライの中心に位置している。
 ニャック・ポアンは、伝説にまつわる神馬の彫像が見られる仏教遺跡。中央に70メートル四方の水が涸れた池、その東西南北にそれぞれ27メートル四方の小型の涸池が設置されている、均整のとれた設計が印象的だ。中央の涸池の中心には、観音菩薩を祀った御堂が見られる。フランスの考古学者によると、中央の池は病気を癒す不思議な水をたたえるという伝説の湖アナヴァタープタを模倣したもので、人や獣の首を通って四方の池へ流れる水は、ヒマラヤの湖を源とする四本の川を象徴したものという。ジャヤヴァルマン7世が12世紀後半、貧しい病人にも観音菩薩の慈悲を分かち与えることを目的に、この池を建立したと伝えられている。


パルティ 2001年6月号 掲載

資料提供・お問い合わせ
産経旅行
16 Raffles Quay #B1-17
Hong Leong Building (S) 048581
TEL:222-6600 FAX:224-1400
E-mail:sankeisg@singnet.com.sg


このサイトの無断転載等を禁じます。copyright 2000 Asia Business Network
免責事項について // サイトに対するお問い合わせ:arcins@singnet.com.sg