まんだりん 面白話 |
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2006年10月
第五十九話
中国の方言ブーム
広い中国では発音も単語もずいぶん違う方言がいくつも使われており、外国語のように互いに通じない方言も多くあります。
最近、この方言を見直す動きが広まっています。
中央政府は全国統治の必要から強制的に「共通語」政策を進めています。今の共通語は「普通話」(マンダリン)とも言い、北京語を基にして作られたものです。この50年間、中国政府は公共メディア、例えばラジオやテレビでは、方言使用を厳しく制限してきました。
ところが最近、いたるところに方言ブームが静かに広がっています。上海では2002年にある学校で初めて「上海語クラス」を開いたら、爆発的な人気になりました。教室の中に入りきれなくて、窓外の廊下にも聴講者でいっぱいになるほどの繁盛ぶりでした。生徒はいわゆる地方から来た中国人だけではなく、海外からきた留学生が2割も占めていました。その後もこの勢いが衰えず、関係者の頭を痛めているのは有資格の教員数の大幅不足という深刻な問題です。
上海近くの町、杭州、紹興などで地方テレビ局の共通語ニュース放送の視聴率は2%しかないのに対して、現地の方言でニュース番組を放送したら、視聴率が10%にも達しました。一部の地方テレビはレギュラーのアナウンサーを使わずに、方言劇の芸人や地方落語家たちにニュースを報道してもらっています。市民からの反響も予想よりよく、「非常に分かりやすい」「共通語の放送は堅苦しいのに対してこれは面白いし、親しみを感じる」と評判が上々でした。
この方言ブームには特徴があります。改革開放が成功し、経済が急速に発展した地域で起きたことです。原因は二つ考えられます。一つは、教育レベルの向上によりこれらの地域で共通語の普及率が高くなったと同時に、方言保護意識も台頭したこと。もう一つは経済発展につれて、周辺の違う方言の人たちが大勢移民してきたため、新天地の言葉を習う必要があるからです。
一方、共通語の普及も新しい動きをみせています。経済の急速発展と全国交通網の整備により物流、人の移動が今までなかったスピードで進んでいます。違う方言の人がビジネスをやる時の媒介語はやはり共通語の「普通話」でなければなりません。ある奥地の農家は「羊の皮」を「家鴨の皮」と聞き間違えて、商売で大損したとか、大きな町に出稼ぎに来た若い人が言葉の問題で色々と騙されたとかということを聞いて、みんな積極的に共通語を習うようになりました。今まで行政命令だけではうまくいかなかった共通語政策が、経済活性化によって思わぬ助け舟を得たことになります。
もう一つは、経済発展をした方言地区では、シンガポールでも見られるようなバイリンガル現象が起きています。つまり場面によって言葉を使い分けることです。教育、公の場面などでは共通語、同方言同士が連帯感を強める必要がある時は方言を使うというバイリンガル的な対応が行われています。
中国語とマンダリン
中国は国土が960万平方キロ、日本の約26倍の広さで、ヨーロッパがすっぽり入る面積です。したがって、地方ごとに「方言」があり、その発音はまったく違います。ヨーロッパでドイツ語とイタリア語が違うように、たとえば北京の人と上海の人とでは、通訳がないと会話が成り立ちません。
そこで、コミュニケーション用の共通語が必要になります。こうして定められた言葉が「マンダリン」です。大陸では「普通語」といい、「普」遍的に「通」用するという意味です。
したがって、「マンダリン」あるいは「普通語」は、中国人および華人の共通言語で、外国人からは「標準中国語」と呼ばれています。
葛珠慧(ガー・チュイフィー)先生
星日外国語学院院長、シンガポール大学(NUS)・南洋理工大学(NTU)日本語非常勤講師。元CCTV(中国国家テレビ局)国際部キャスター
長年シンガポール大学の日本語講師を務められている葛先生は、上海のご出身(現在はシンガポール国籍を取得されています)。ご主人ともども日本留学経験のある親日家です。
超大国アメリカが同時多発テロに見舞われ、ほとんどの国が経済不況に陥っているなか、中国だけが8年連続でGNPを8%以上増加させ、APECの上海開催、WTO加盟、2008年の北京オリンピックなど元気ぶりが目立ちます。
駐在されている方々も、中国への出張や転勤が増えています。また、長年滞在していても、マンダリンができないために不自由を感じておられる方が大勢おられます。この連載を通じて、ぜひマンダリンに親しんでください。